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第2話

2009/07/14 (Tue) - ドラゴンクエスト5


 目の前は一面の朱だった。
 自分の足はその朱に染まり、地面と同化しているようだ。
 目の前には父と母と、幼馴染が横たわっていた。
 
 それを見て湧き上がった感情は、悲しみでも憎しみでもなく
 虚無感だった。
 自分の思考が追いついていない。
 何が起こっているのかよくわかっていなかった。
 
 ふと、幼馴染の持っている短剣が目に入った。
 死してもなお握り締めてるその手は思いのほか小さかった。
 
 僕はそれを無意識のうちに取り上げた。
 そして自分の首下へと持っていった。
 
 早くこんな夢など醒めればいい・・。
 
 短剣を両手で掴みなおし、ぐっと力を入れた。
 
 しかし、それ以上動くことはなかった。
 身体が言うことをきかない。
 
 『死ぬな・・。今死ぬことは私が許さん。』
 
 どこからか声が聞こえてくる。
 未だ身体は動かないまま、その声をじっと聞いた。

 『お前にはまだやってもらわなくてはならないことがある。死ぬことは
 許さん、勇者よ・・。』

 それを聞き終わると、急に意識がなくなった。
 僕が人形になった瞬間だった。

 
 
 目が覚めれば、俺は自分のベッドの上だった。
 息は荒く、額には汗が滴っている。
 
 やけにリアルな夢だった。
 
 夢のはずなのに、あの血の匂いも握った短剣の感触も思い出せる。
 そして、あの声も。

 あの声には聞き覚えがあった。
 忘れるわけがない。
 俺を、この運命に縛り付けた張本人だ。

 俺はあいつを憎んでいる。
 俺を俺ではなく、勇者にしたあいつを。
 
 「ふみゃぁ」

 泣き声に考え事を中断させられた。
 見ればベッドの上でプリズンが伸びをしている。
 その様子にふっと笑いプリズンを抱き上げた。
 
 他のモンスターは皆、父か妹に懐いた。
 ただこいつだけは不思議と、ずっと俺だけに懐いて他の人には
 あまり懐かなかった。
 なんせラインハット城のそばで鳴いていたこいつを拾ったのは俺だ。
 
 プリズンを抱えたままベッドから降り、窓辺へと向かう。
 今日も空はきれいに晴れ渡っていた。

 「・・うぜえ天気。」
 
 みゃぁ、っと問いかけるように鳴いてきたが、なんでもない、と顎を
 撫でてやる。
 気持ちよさそうなプリズンをベッドに寝かせ、そのまま部屋を出た。
 
 
 身支度を整え食卓に向かうと、既に父と妹は席に座っていた。
 
 「おはよう、お兄ちゃん」
 
 「おはよう」

 妹の笑顔に、俺も笑顔を向ける。
 彼女はいつもこうだ。
 朝から満面の笑みで優しく接してくる。
 
 「父さん、おはよう」

 「うん、おはよう」

 父はなにやら手紙を読んでいるようだったが、俺の言葉に
 顔をあげて微笑んだ。
 
 父は妹とは違い、穏やかに微笑み透き通った瞳で見つめてくる。
 実はこれも少し苦手だ。
 
 「その手紙は?」

 「ん?ああ、これはラインハットからだよ。」

 そういって父は俺にその手紙を手渡した。
 ヘンリーさんからではなく、デール王からのもののようだ。
 
 最近は俺も妹も、父の仕事を手伝うことが多い。
 そろそろ政治に参加させたほうがいい、とオジロン大臣から提案が
 あったからだ。
 そのため、こうして父宛てのものを俺が見るのも珍しくなかった。

 手紙の内容はこうだ。

 最近ラインハット国内で人が突然、凶暴化し人を襲うという事件が
 多発しているという。
 見たこともないような魔物も、また出るようになり原因追求のために
 一度ラインハットに来てほしい、とのことだった。

 「へえ・・。なんか嫌な事件だね。」

 「そうだね。・・まるで何かの前触れみたいだ。」

 父の顔は穏やかなものから厳しいものへと変わった。
 これだけで彼の印象はずいぶんと変わる。
 この二面性は、はっきりいって性質が悪い。
 
 こんなところだけは、俺に似ていると感じてしまう。

 「明日ラインハットに行こうと思うんだけど、二人はどうする?」
 
 また表情を穏やかなものに直して俺たちに問いかけた。
 
 正直面倒だな、とは思ったが仕方ない。
 ついでにコリンズに会って話でもしてくればいい。
 
 「僕も行くよ」
 
 「わ、私も!!」

 妹は人が困っていればいつでも駆けつける。
 予想通りの返事だ。
 
 「わかった。じゃあ母さんにそのこと言わないとな。」
 
 ちょうどそのとき、母さんが食卓へとやってきた。
 腕には弟のエルアナスが抱えられている。

 「遅くなってごめん。エルが愚図っちゃって」
 
 エルアナスは一昨年産まれた弟だ。
 父も母さんも妹も、皆エルアナスには甘い。
 彼が初めて歩いたときは3人だけでなく、サンチョもオジロンも
 俺たちの乳母も、とにかく色んな人が馬鹿みたいに喜んだ。
 
 俺はどこか、それを覚めた目で見ていた気がする。
 
 気が付けば父が母さんに、明日のことを説明しているのをどこ
 かで聞きながら、幸せそうに眠る弟を俺はただ見つめていた。

 

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