「皆でさ、ご飯食べにいこうよ」
「いくう!!お腹すいたー!!」
さっきまで例の鬼畜メニューをこなして床に倒れこんで
いた千石が深津の言葉に急に元気になった。
その様子にクスクスと笑う深津はただのいいお兄さんだ。
これはなんだ?
飴と鞭とかいうやつなのか?
お前をそんなに疲れさせたのはこいつだというのに。
「亮もいちゅんでしょ?」
平古場の問いに、たまたま練習に来ていた宍戸がえ?っと
不思議そうな顔をする。
「俺も行っていいの?」
「当たり前じゃん。何遠慮してんの」
千石がニコニコ笑うと、他の皆も笑顔でそれに応えた。
「亮くんのも、皆のも今日はおごってやるからな」
やったあ!!と盛り上がる他のメンバーをよそに、俺は警戒心
をとくことができなかった。
俺の嫌な予感は最近、よく的中するのだ。
案の定、なぜか深津が俺に悪戯を思いついたような笑顔を
向けてきた。
もちろんというか、なんというか。
俺が行くかどうかの選択権は与えられていなかった。
そもそも宍戸が俺を離してくれないだろう。
そういうものには積極的に参加しなさい、とか親のような
ことを言われるに決まっている。
「てかどこに行くの?」
深津がスタスタと進んでいくので皆は何を食べるのかも
聞かずに着いてきているだけだ。
しかし先ほどから、俺がよーく見知った道を歩いているのだ。
本当に嫌な予感しかしない。
「ん?ここ」
ハートマークが付きそうなほどニッコリと笑った深津が指した
のは、やはりというべきか、俺への嫌がらせのために指定
したに決まっている場所であった。
くっそ嵌められた・・
この男はどこでどうやってこんな情報を仕入れてきたのだろうか。
「いやーここ旨いんだよ?河村寿司」
「いらっしゃい・・あ」
「・・・・・・よお」
俺が川村と知り合いだということを知らない千石以外のメンバー
は不思議そうに俺たちを見た。
白々しい発言をする男もいたが。
「あれぇ?あっくんと隆くんって知り合いだったんだ?」
「・・・おまえ」
俺の囁きなんかものともせず、カウンター席へと着く。
店の奥からやってきた河村の父が俺たちに気付き挨拶をする。
「タカくんお店で修行してたんだ」
俺とのこともあり、河村と交流があった千石は早速、おしゃべりを
はじめる。
「うん。高校行くよりお店継ぎたかったから・・。それにしても
面白いメンバーでやってきたね」
そりゃ河村にとっては不思議で仕方ないだろう。
宍戸や福士となぜか一緒に寿司を食いに来ているのだから。
「彼って、氷帝の宍戸くんだよね?」
「おう。今日はたまたま練習に参加させてもらったんだ。」
練習という単語に河村が首をかしげる。
「練習?ってテニスの?」
「あっれー?あっくん高校のこと行ってなかったの?」
「なんでわざわざ言うんだよ・・」
友達でしょ!?っと千石が怒ったように言う。
ちゃんと大切なことは言いなさい。と宍戸母まで一緒になる。
その光景を横でみていた穂波が声を出して笑う。
「俺たちさ、別の高校進学したんだ。」
千石からあらかた経緯をきいた河村はなぜか嬉しそうに笑った。
「すごいね。沖縄の平古場くんまでいるなんて。」
「わんはいれはひゃふひんひきひゃく・・」
「とりあえず食ってるもん飲み込め」
福士がお茶を差し出し、口元を拭いてやる。
甲斐甲斐しく世話をする福士にお母さんポジションだよなー、ときっと
自分のポジションをわかっていない宍戸がつぶやく。
「きっと強いチームになるよ」
「俺もそう思う」
河村と宍戸に言われ、えっへんと千石が胸を張る。
「なんてたってうちにはあっくんがいますから」
「なんでそこで俺なんだ。」
呆れて言う俺に、何いってるんだ、と深津が続ける。
「あっくんはうちのエースですから」
それに皆が頷く。
皆にからかわれて俺は顔が熱くなるのを感じた。
黙れ、といってもこのメンバーにはなんの効果もなく、
かわいいー、と口々に言われ余計に自分がイラつくだけだった。
「よかったな、亜久津」
河村が優しい目でそういった。
きっとこのよかった、には色んな意味が込められているのだろう。
テニスをやめてしまいそうになった俺、様々なことにイラついている
俺を見てきた河村だからこそ出てきた言葉だ。
随分とこいつにも心配させていたんだな、と思った。
俺は河村の言葉に素直に、おう、とだけ返した。
あっくんいいこ。
きっとこれから河村さんとこ常連になります。
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